近年、会社や社会福祉法人、学校法人などで従業員が現預金を横領してしまうという事件が多発しています。

今回は、このような従業員による横領行為についての対応をご説明させていただきます。

 

1 横領行為が発覚した場合、まず対応すべきこと

横領行為は、経理上の数字が合わない、使途不明金が発生していることなどから発覚することが多いです。

まずは、横領されたと疑われる金額の確定を行うべきです。

場合によっては税理士の協力もお願いし、いつからいつまで、何度くらい、合計いくらの使途不明金が発生しているか確定すべきです。

なお、使途不明金であっても、単に経理ミスということもあります。

そのため、単なる経理ミスでは説明がつかない部分を特定します。

そして、請求書や領収書などの資料とともに、横領が疑われる部分の特定を行っていきます。

そして、金額を確定した後、経理処理までのお金の流れを検討し、どの従業員が横領したかを特定することを行うべきです。

 

2 従業員へのヒアリング

どの従業員が横領行為を行ったかの特定が概ねできた場合は、当該従業員に対するヒアリングを行っていきます。

もっとも、疑わしい人物がいたとしても、その他の方にも可能性が残る場合は、その他の方にもヒアリングを行うべきです。

また、ヒアリングは、犯人扱いの取調べではなく、事実調査に協力して欲しいというスタンスで望むべきです。

もし、犯人扱いしているのか聞かれたとしても、犯人扱いしているのではなく事実の調査に協力して欲しいと回答を行った方が良いです。

そして、ヒアリングを行う際は、あまりに多人数で行うのではなく、会社側は2名程度で行うのが無難です。

あまりに多人数で行った場合、圧力から言わされてしまったなどと主張されるおそれがあるからです。

また、録音を行う場合は、録音機を卓上に出し、録音の同意を取ってから行ってください。

無断録音も証拠としての価値がある場合もありますが、きちんと同意を取ったうえでの録音の方が証拠価値が高いと考えられるからです。

 

3 横領行為を認める場合

ヒアリングを行い、横領行為を認める場合、金銭の返還(民事責任)、懲戒処分、刑事告訴を検討すべきとなります。

もっとも、認める場合は、何を認めたかということを適切に証拠化しておくべきです。

特に、横領行為が複数回にわたる場合は、どの横領行為を認め、合計いくら横領したのかを書面化しておくべきです。

そして、書面化する際は、請求書や領収書、帳簿などの資料を示しながら事実確認を行うべきです。

資料を示さずに認めさせた場合、後に認めさせられたなどと主張されるおそれがあるからです。

 

4 横領行為を認めない場合

横領行為を認めない場合は、当該従業員の言い分を書面化しておくべきです。

この場合、言い分は詳細に書面化しておくべきです。

どのような資料を見せられ、使途不明金について聞かれたが、知らない、誰々に預けたなどの言い分を詳細に記載しておくべきです。

また、不合理な弁解も書面化しておくべきです。

たとえば、当然に回答ができる事項について知らないと言った場合など、不合理な弁解は後に証拠として使用できることがあるので、確実に書面化しておくべきです。

なお、不合理な弁解は、ヒアリングを重ねるごとに変遷していく傾向にもありますので、確実にその都度ごとに書面化しておくべきです。

 

5 刑事告訴について

横領は、犯罪ですので、当該従業員に刑事罰を受けさせる場合、刑事告訴を検討します。

横領を認める場合に刑事罰まで求めないのであれば、刑事告訴は不要ですが、横領を認めない場合には警察の捜査に期待という意味もあるので刑事告訴を検討すべき場合があります。

刑事告訴は、告訴状を作成して捜査機関に提出することになります。

もっとも、刑事告訴をしたとしても、必ず捜査がされるわけではありません。

確実に捜査を行ってもらうためには、会社で調査した証拠の提出が必須となります。

請求書、領収書等の資料やヒアリングを書面化したものなどを証拠として提出すべきです。

なお、刑事告訴を行った場合、新聞などで報道されることがあります。

そのため、刑事告訴は、報道される可能性があることも考慮して行うべきです。

6 民事責任、懲戒処分

横領行為を認める場合は、金銭の返還や懲戒処分を検討すべきです。

金銭の返還は、どのように返金するかの内容を書面化すべきです。

また、懲戒処分は、就業規則に定めのない懲戒処分ができないため、就業規則を必ず確認して行うべきです。

横領行為を認めない場合は、金銭の返還を民事裁判にて請求することになります。

民事裁判は、証拠によって判決がなされます。

そのため、手持ち証拠での勝訴可能性を考慮して裁判は起こすべきです。

なお、懲戒処分は、民事裁判での勝訴後に検討するのが無難です。

もし証拠不十分で懲戒処分をしてしまった場合、後に懲戒処分の有効性が争われるおそれがあります。

民事裁判での判決があれば、その判決に基づいて懲戒処分を検討することが可能です。

 

7 退職金の問題

横領の事実を認めた場合など、懲戒解雇が可能なケースもあります。

そして、懲戒解雇による場合は、退職金を支給しないという退職金規定になっているケースも多くあります。

もっとも、懲戒解雇にしたとしても、後に退職金の全部不支給が違法とされることもあります。

懲戒解雇と退職金の不支給を行う場合は注意が必要です。

 

横領の疑いがあったらすぐに弁護士にご相談下さい

以上、従業員が横領行為を行った場合の会社の対応については、検討すべき法的問題が多々あります。

当事務所は、従業員が横領行為を行った場合の対応についてご対応させていただいております。

従業員の横領行為に関するご相談は是非当事務所にご連絡ください。

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