退職した従業員が多数の従業員を引き抜くということが現実社会ではあります。
特に、同業種の事業を自社と同じ商圏で行い始めた場合には、売上の減少など多大な悪影響が自社に及びます。
また、そもそも、従業員を引き抜かれること自体が損害です。
引き抜かれる従業員の方は有能な方であることが多いでしょう。
余人に代えがたい人材を引き抜かれた場合、穴を埋めることが容易でないこともあります。
そのため、引き抜き行為は、事前に防止することが重要といえます。
悪質な引き抜き行為には会社としても厳粛に対応すべきでしょう。
もっとも、裁判例上、引き抜き行為自体は、単なる勧誘に留まるものは違法ではないとされています。
従業員にも転職することへの自由があるので、無制限に禁止することはできないことが理由です。
なので、慕っている上司に付いて行ったなどという場合には防止することが困難です。
ただし、裁判例上、転職する従業員のその会社に占める地位、会社内部における待遇及び人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、勧誘に用いた方法等を考慮し、社会的相当性を欠く場合は違法性を有するとされています。
この裁判例の基準からすれば、秘密裏に移籍の計画を立て、大量に従業員を引き抜いた場合には違法性が認められると思われます。
また、会社に害を与える目的等も違法性が認められると思われます。
もっとも、この裁判例の基準は、ある程度厳格な要件でありますし、事後的ではなく、従業員の引き抜きは事前に予防する対応こそが重要です。
そのため、特に、引き抜きを行うことが疑われる従業員が退職する際は、引き抜き行為を行わない旨の誓約書を作成するということも検討すべきです。
たとえば、退職後〇年間は、従業員に対する転職の勧誘、他社への転職の勧誘を行わないという誓約書を作成させることです。
誓約書の有効性の問題は残りますが、一定程度の抑止力になるのは間違いないと思われます。
また、在職中に引き抜き行為を画策している社員がいる場合は事前に対応を行うべきです。
たとえば、懲戒処分や退職金の減額などを検討するべきです。
これらにより、事前に引き抜きを防止すべきです。
もっとも、懲戒処分を行う場合は就業規則の規程が必要ですし、退職金の減免を行うのであれば懲戒処分を受けた場合に退職金が減額できる旨の退職金規程が必要となります。
また、これら懲戒処分等を行う場合には事実の調査や証拠化が必要です。
当事務所は、従業員の引き抜きに関する問題を扱っております。
懲戒処分を行う場合の就業規則の整備や退職金規程の整備、退職時の誓約者の作成などの業務を取り扱っております。
従業員の引き抜きに関するご相談は是非当事務所をご検討ください。